私とタクオは3日に1度くらいの頻度で話していた。
他愛もない話だったり、テレフォンセックスしたり・・・だった。
私の性欲は強いのか?問題に関しては特定の人にだけ強いという結論を出した。
私と志賀さんの関係には
「うまくいってるならそれが一番だよ。」
と言っていた。
志賀さんと私は喧嘩することもなく、仲良く過ごしていた。
彼は優しかったし、私を怒らせるようなことはしなかった。
私は
志賀さんが浮気するんじゃないか?
とか
他に好きな人が出来るんじゃないか?
とかで喧嘩を吹っ掛けることはなかった。
だから、志賀さんには変わっていると言われた。
普通の女性はそういうことで好きな人と喧嘩するらしい。
無駄な喧嘩はしたくなかった。
それはうちの母親に依るところが大きいのかもしれない。
意見の相違があったり、気に入らないことがあるとヒステリーに叫び、それが収まると次は無視。
こちらが謝るまで、いや謝っても自分のやり方優先で攻撃して、思い通りに操作しようとする。
私はそんな母親が苦手だった。
「あなたは勝手で何も話さない。」
と言われ続けていたけれど
「話さないのではなく話せない。」
と思っていた。
話すだけ無駄だと、それまでの色々で学んでいた。
だから、志賀さんのことも話していなかった。
そんなこんなで私は喧嘩が嫌いだ。
感情で言い合いをしても解決には繋がらないと思っていた。
その点志賀さんは細かいことは気にしないおおらかさがあって私を安心させてくれたし、喧嘩するようなこともなかった。
ただ、たまにリクエストはしてきた。
志賀さんは私の化粧が濃いと嫌がった。
私はハッキリした顔立ちでどちらかと言うときつく見られる。
だから普段はファンデーションに眉尻を足して、マスカラ、薄い色のリップクリーム程度のメイクだった。
きちんと化粧すると、夜のお姉さんに傾いてしまう。
ただ、その頃はハッキリした色の海外ブランドの口紅が流行っていた。
お土産で戴くこともあって、そんな時はお礼を兼ねて使うようにしていた。
赤やショッキングピンク、鮮やかなオレンジの口紅を付けていると、遠慮がちに
「いつもの方がいいよ。何ならスッピンでいい。」
と言ってくる事が2~3回あった。
私自身に拘りがあった訳ではないので、そこは気を付けるようにした。
所詮は、お化粧自体を身だしなみの1つくらいにしか思っていなかったし、嫌がる人がいるならしなくていいと思っていた。
そんな感じで私達二人の仲はうまくいっていた。
七月の末に母親から呼ばれて階下に降りると、テーブルの上にお見合い写真が並べられていた。
全部で5人。
写真に写る男性はみんな結構な年上に見えた。
「もうそろそろ結婚を考えないと。すぐに行き遅れになってしまうからね。」
と言う。
母親が贔屓にしている呉服屋さんにお願いして集めて貰ったお見合いだと言う。
「片っ端から全員に会ってや。」
彼女の声には命令の色が滲む。
「いくつなん?この人達。」
デブとハゲのオンパレードだった。
清潔感が全くない。
一人に関しては写真なのにダラダラの汗が
写っていた。
「30歳~42歳や。」
私は黙ってしまった。
22歳の自分からすると、30歳でもオッサンだった。
その上をいく42歳なんて親にしか見えなかった。
わざと大きな溜め息をついた。
それを聞いて
「全員医者や。結婚相手は医者か弁護士にしてや。その為に短大行かしてあげたんやから。」
と捲し立てられる。
「何で医者か弁護士なん?」
出来るだけ静かに聞いてみる。
「お金よ、お金。結婚して家庭を持ったら、愛だの恋だのなんてすぐに消えてなくなるから‼大事なのはお金や。お金があれば我慢できることはいっぱいあるで。」
「じゃあ、相手がお金持ちなら良いわけ?」
「そうや。後は家柄な。変な家はあかんで。」
出そうになった溜め息を私は飲み込んだ。
うちの母親はどこを目指しているのだろうか。
変な家って何やねん、とも思っていた。
私は母親に志賀さんのことを話すかどうか悩み始めた。
まだ先でいいと思っていたけれど、紹介するなら早い方が良いような気がする。
タイミングだけは間違えないようにしなければならない。
私はタクオとジャスミンに相談した。
うちの母親の性格は前々から話していた。
二人とも志賀さんを紹介した方がいいとアドバイスをくれた。