二十二歳 志賀さん(29)
雪を迎えに行った。
ニャアニャア鳴きながら足元にすり寄って来るのが可愛くて、キャリーには入れずに抱っこして帰って来た。
もうかなり大きく成長しているけれど、まだまだ子供だ。
部屋に帰るとホッとした。
スーツケースを開けて洗濯物を取り出す。
クリーニングに出さなければいけない物は一旦ハンガーに吊るした。
昨日受け取った紙袋の中身は大人のオモチャ箱でエッチなグッズが数種類入っていた。
「使わないな・・・」と思いながら、サイドボードの引き出しにとりあえず仕舞った。
夕食の買い物に行くついでにクリーニング店に寄ってもらうよう、志賀さんに声を掛ける。
帰宅すると現実に引き戻される。
実家にいつ行こうか・・・ぼんやりと考えていた。
旅行中の贅沢な食事で胃腸も身体も重かった。
「夜は何が食べたい?」
私が聞くと
「お粥とか。胃がもたれてる感じがすんねん。」
とナイスな返事が帰って来た。
今日は早めに寝たかった。
志賀さんがアイスココアを作ってくれた。
ソファーに座った彼の隣に座り、もたれ掛かった。
私はずっとモヤモヤしていた。
昨日のことがわだかまりとして残っていた。
「ねぇ、昨日のことだけど。何で私が朱莉さんのパパとあんなことにならなきゃいけなくなったのか説明して。」
引っ掛かっていたことを聞く。
「覚えてないんか?自分が頷いたんやって。それやのに、えらい嫌がって泣いてたから、あんまり分かってなかったんちゃうかな・・・とは思ってたけど。」
「嘘・・・」
「こんなことで嘘はつかへんよ。」
「私が頷いても、止めてくれたら良かったのに。何で志賀さんは私以外の人とキス出来んの?おかしくない?」
「・・・ごめんやで。男は生理的にダメなタイプやなかったらヤれるからな。っていうか、それってヤキモチか?」
私は黙ってしまった。
ヤキモチ・・・なんだろうか。
そうなのかもしれない。
いや、そうなんだろう。
でも、今はそんな風に聞いて欲しくない。
大体、私に志賀さんを責める権利なんてないだろう。私の方が酷いのだから。
分かっている。
分かってはいるけれど、猛烈に腹が立っていた。
朱莉さんとキスした。
タクオともジャスミンともキスする。
私は最低かもしれない。
でも、私は見ず知らずの何処の誰だか分からないどうでもいいような人とはキスしない。
彼に対しては、うまく伝えられそうになくて黙るより仕方なかった。
「そんなにイヤやった?」
そう聞かれて、私はその言葉に返事をしなかった。
黙ってキッチンに行き、夕飯の用意をした。
茶化すような言い方が無性にイヤで、イラついた。
志賀さんはお風呂の準備をしてくれた。
「一緒に入ろう。」
そう誘ってくれたけれど
「お先にどうぞ。」
と私は答えた。
彼は黙ってお風呂場に行ってしまった。
横顔がムッとしているように見えた。
可愛くない・・・自分でもそう思う。
私は雪を抱きながら、自分の可愛いげのなさに途方に暮れていた。
でも気持ちをどうやって整理すればいいのか分からなかった。
黙って一緒にお粥を食べて、片付けをして、お風呂に入った。
まだ8時前だというのに、タオルケットを持ってソファーで眠ろうとする。
志賀さんが
「ルル、こっちで一緒に寝よう。」
と言ってくれたけれど
「ソファーで寝る。」
と答えた。
背中を向けた瞬間に腕を引っ張られる。
ベッドに倒れ込むと、一瞬で抱き寄せられた。
「何が気に入らへんの?」
志賀さんが静かに言ってくる。
R「別に・・・」
S「もう仲直りしよ。俺、喧嘩はしたくないねん。」
髪にキスしてくる。
「やめて。」
私は頭をブンブン振って抵抗した。
志賀さんが大きな溜め息をつく。
「ルル、それくらいにしとかんと俺も怒んで。」
志賀さんがキスしてきた。
私は唇を固く閉じて抵抗した。
「セックスで誤魔化そうとしないで。」
私が言うと、彼は黙って私から離れた。