二十一歳 志賀さん(19)
私は志賀さんにお見合いのことを話した。
彼は黙って聞いていた。
母親が吐いた暴言に近い言葉は伏せた。
話終えると
「挨拶に行くわ。ご両親のご予定を聞いておいて。」
と言ってくれた。
「その前にうちの親父に会ってくれへん?」
とも言われた。
私は頷いた。
8月最初の水曜日に私は志賀さんのご両親と食事をした。
志賀さんのお父様は明るくて快活な印象だった。
ガソリンスタンドと飲食店を幅広く経営されていることは女子行員の噂話で知っていたが、仕立ての良いスーツが似合う品の良さと都会っぽさは東京の人のようだった。
お母様は相変わらず綺麗な方だったが、この日はほとんど喋らなかった。
ただ、舐めるように見られて緊張してしまう。
「結婚は当人同士のことやから。お前がルルさんと結婚したいならそれでいい。」
とおっしゃって下さった。
ホッとした。
後はうちの両親だけだ。
私は母が機嫌が良い時を見計らって、付き合っている人がいることを話した。
案の定、大激怒だった。
怒らせない為に付き合い始めてまだ間もないことにしていたが、付き合う前に話さなかったことに怒り始めた。
一応早帰りの水曜日にだけデートしていたと話したけれど、親に嘘をついて男と会っていたなんて・・・と天を見上げてから泣き崩れた。
どこの誰か?を聞かれて話すと
「成金かっ!」
と人の噂を出してきて並べる始末だった。
そしてあちらのご両親の承諾は得ていると話した途端
「順番が違うやろーっ‼なんであっちが先なんやッ‼」
と叫んで、台拭きを投げつけられる。
いつものことだけれど・・・気持ちが沈んで溜め息が出そうになる。
父?
父は基本的に母の意見に従う人だったので、何も言わないってことは同じ意見なのだろう。
いや、何も考えていないのかもしれない。
次の日から私の通勤は親の送迎になった。
帰りは定時になると母親の車が従業員出入り口に張り付いていた。
部屋の電話も外され、平日の夜も休みの日も家から出られず、母が選んだ人とお見合いさせられる。
他人に話すと信じて貰えないようなことだけれど、うちの母親はそういう人なのだ。
昔から。
でも、まぁ。
そんな中で育って来た私は黙ってそれを受け入れるような人間ではなく・・・
自分の部屋には鍵を付けて、同期に頼んで電話機を買ってきて貰い部屋に置いた。
普段は営業が使う裏口から出て志賀さんにも短い時間だが会っていた。
志賀さんは
「とにかく一回会って話したい。」
と言ってくれていた。
が、事は簡単に運ばなかった。
最悪だった。