Bluebird~恋と愛のちがいについて~

自分の恋愛やセックスを振り返って整理していこうと思います♡

二十二歳 志賀さん(22)

志賀さんは私に



「ここに居ればいい。」



それだけ言って何も言わなかった。

私の母をどう思ったのだろう。

ただ、良い印象なんて持てないことだけは分かっていた。

私のことだけなら、まだいい。

でも、彼の家族のことまでひどく言った母を私は許せなかった。





彼に何を話せばいいのか分からなかったけれど、私はもう実家には帰りたくなかった。

このまま縁を切って、一人で生きて行く道を心底望んでいた。

自分の思い通りにならない娘が嫌なら、放り出してくれて構わなかった。

本気でそう思っていた。








志賀さんに



「出掛けよう。」



と言われて、頷いた。



私と志賀さんはお盆休みの振替休日を取って三連休にしていた。

そして彼の秋冬の仕事用スーツを買いに行く予定にしていた。

彼は9月末で今の会社を辞めて、10月からはお父様の会社に入社することになっている。

その為のスーツだ。

今までよりも少し派手なスーツを欲しがっていた。





重い空気が流れる部屋から出て、外の空気を吸えば気分も変わる気がした。






雪を動物病院で預かって貰うと、神戸に車を走らせた。

私は関西方面にとても疎い。

疎いけれど、神戸の街は好きだった。

年配の女性がギンガムチェックのワンピースを着ているのを雑誌で見て、すごく素敵で憧れていた。

お洒落な街を二人で手を繋いで歩いた。

何もなければ、きっと楽しいデートのはずだ。

でも気持ちは上がらなかった。






どうしても今朝のことを考えてしまう。





志賀さんときちんと話し合わなければならない。

いつまでも志賀さんの部屋でお世話になる訳にはいかない。

結婚の決まっていない男女が一緒に暮らすことは、志賀さんのご両親にとっても良い心情は生まないだろう。





オフィス街の中にある隠れ家的なレストランに入って遅めのランチを食べることになった。

注文をして、ドリンクが来ると少し落ちついた。




S「何考えてんの?」



R「ん?何にも。」



S「嘘や。絶対考えてるわ。」



R「この状況でホントに何にも考えてなかったら、すごいメンタルよね。」





私が笑うと





S「俺と別れること考えてるのとちゃう?」



R「それは考えてない。」




S「なら、えぇけど。」




R「ただ、自分で部屋を借りようと思ってる。いつまでもお世話になるわけにはいかないし、けじめはつけた方がいいと思ってる。」




S「うちにいたらえぇやんか。」




R「そういう訳にはいかない。そこはちゃんとしたい。」





S「給料安いのに大丈夫?」





問題はそこだった。

財形で三万円を引かれたら、手取りは11万円ほどしかない。

残業してもサービス残業で手当てはつかない。

保険や年金、奨学金の返済等の諸経費を差し引くと転職して給料をあげなければ、生活はカツカツだろう。

車を持つことも維持費を考えたら儘ならない。




「とりあえず、財形の金額を減らすわ。」





と言うと




「家賃は俺が出すよ。」





と言ってくれた。

言ってくれたけれど、そこは甘えたくなかった。


私の人生だ。

志賀さんに迷惑や負担を掛けたくはない。

早急に住まいを探すことを決意した。


母のあの剣幕を考えると、銀行も辞めたほうがいいだろう。

ただ、私はコネ入社だ。一度実家に戻って話をすべきだと考えていた。

間に入って下さった方には誠意ある対応をせねばならない。





S「ほんまに縁切られたら、どうすんのん?」




R「どうもしないよ。」




S「そうなったら、俺と結婚しよ。うちの両親は許してくれてるわけやし。やれるだけのことをやってみて、それでもあかんかったら俺と結婚して。」




私は頷いた。

頷いたけれど、気持ちは重かった。




食事を済ませると二人でスーツを選びに大丸に向かった。

彼の行きつけのラグジュアリーブランドに入ると担当者らしきスタッフが出迎えてくれた。


私は緊張していたけれど、彼は慣れた様子でメンズ売り場に進む。

何点かをピックアップしてフィッティングルームに入った彼を待つ。

レディースの売り場にはシンプルなブラックドレスがディスプレイされていた。

胸元も背中もがっつりと開いていて、セクシーなドレスだった。



S「ルル。ちょっと見てや。」



R「似合ってるよ。」



S「いや、今からまた着替えるから。どれがえぇか言うて。」



R「うん。」




そのブランドが体型に合っていて好きだ、と前に話していた。

そして、志賀さんの雰囲気にとても似合っていた。



グレーのチョークストライプのウールのスーツと、シンプルな細身のネイビースーツを選んだ。

ドレスシャツはシンプルな白を選び、ネクタイはワイン色のものを一本。




総額は50万円を軽く越えていた。




支払いを待っている間に、志賀さんがディスプレイのドレスに目をつけた。





「なぁ、このドレス着てみてん。」




と言い出した。





「無理です。」




即答する。






海外の女優さんじゃあるまいし、こんなにセクシーなドレスを着ることなんて一生ないわ。

と心の中で呟いた。





「こんな時くらいじゃないと着ることないで。ちょっと着てみ。」





そう言うと志賀さんはスタッフを呼んだ。



ドレスとニプレスを渡される。

やはりノーブラで着るんだなぁ・・・そう思った。



36サイズを渡されてフィッティングルームで着替えた。

すごい露出である。

胸の谷間どころかみぞおち辺りまで開いていて、背面は腰までガッツリ見えていた。

どこもかしこもスースーする。

裸にバスタオルの方がまだマシだ。




顔だけ出して志賀さんを呼んだ。




「うっわぁ。すごいな。セクシーやな。めちゃくちゃ似合ってんで。出て来てや。」



久々に声がデカイ。

スタッフが




「よろしいですか~?」




と揉み手をしながら寄ってくる。



私は胸元を反射的に隠した。

志賀さんがその手を払った。



「なぁっ‼むっちゃ似合ってるやんな。」



彼がスタッフに言うと



「とってもお似合いでございますぅ~。日本人でこのドレスがお似合いになられる方はそういらっしゃらないですよ~。芸能人では○○様が先日着用されてましたぁ。」



その言い方が営業丸出しの言い方で、私は余計に恥ずかしくなってしまう。

芸能人と一般人は全然違う。

それに似合ってなくても店員は本当のことなんて言わないだろう。




「これも買うわ。」





志賀さんが言ったのを、私は遮った。





R「着ていく所ないし、いらないよ。」





S「結婚したらパーティーもあるし、必要になってくるよ。」





R「それはその時に考える。」





S「じゃあ、今からそのドレスを着れる場所に行こう。」





志賀さんはマネキンがドレスに合わせていたピンヒールのパンプスを私に履かせた。

海外ブランドの靴は甲が薄くて幅がない私にちょうど良かった。

小さなハンドバッグをスタッフの人が数点揃えて持って来た中からシンプルな黒いサテンのバッグを彼が選んだ。


彼は黒いカードをスタッフに渡した。

ドレスとパンプス、小さなパーティーバッグで50万円を越えていた。

1回で百万円以上の買い物をしてしまう滋賀さんの顔をマジマジと見た。

今まで一緒にいてこんな買い物をしている所は見たことが無かった。

でも彼がいる世界とはこういう世界なのだろう。






「普段はお金を使わないから、たまにはね。」





私の視線に気づいて、そう言って来た。

確かに外食よりも家でご飯を食べたがったし、下着も決まったもの5枚をローテーションで履いて傷んだら買い足すスタンスのようだった。




余計な物は買わないから、こういうお金の使い方は有りなのだろう。




いや、これは余計な物じゃないのか?

無くても困らないのではないだろうか。







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