Bluebird~恋と愛のちがいについて~

自分の恋愛やセックスを振り返って整理していこうと思います♡

二十二歳 志賀さん(24)

朱莉さんも同行してくれた。



私が



「本当にすみません。」



と謝ると




「あの桃のリキュール80度なんだよね。だから、酔って当然やねん。」



と笑った。


志賀さんがムッとしたのが分かった。



「それは先に言わんとあかんやろ。」



と怒っていた。



2階の喫茶は不思議な空間だった。

蚊帳のような感じのシースルーの布でソファーが区切られている。

白の薄い布越しに柔らかい灯りが透けて見えていて、幻想的な薄暗い空間だった。

妙に落ちつく。

ジャズが流れていた。



既に、何人かのお客様がいらっしゃった。

空いてる席の方が少ない感じだ。



私達は一番奥のソファーに座った。

座ったと言っても、私は志賀さんに支えられていないと横に倒れてしまう程に酔っていた。

ふにゃふにゃだった。



私はお白湯をお願いした。

志賀さんはジンジャーエールを頼んでいた。


身体は自由が効かないけれど、頭の中は普通にスッキリしていた。

80度の度数の高いお酒を飲んだら、こんなふうになるんだ・・・そう思うと可笑しかった。

私の膝下は一反木綿のようにヒラヒラで本当に立てないのだ。


志賀さんが





「どしたん?」




と私を見る。

私は笑いながら





「膝下が一反木綿みたいやなぁ、と思ったら笑えてきてん。」




と言うと




「アホやな。」




と笑っていた。


私は志賀さんにもたれ掛かっていた。

暗さに目が慣れて来て、気づいた。


みんな自分の席でセックスしていた。

私がビックリして志賀さんを見上げると、目が合った。





「ここは、会員制の高級同伴喫茶や。」





私の耳許に囁いてくる。





R「同伴喫茶って?」





私は同伴喫茶を知らなかった。

志賀さんが困ったように笑う。





S「同伴喫茶はカップルがセックスする為に入る喫茶で安いねん。でも、ここは金額設定高い。芸能人とかお偉いさんで不倫してる人とかが来る。ここなら、食事をして上に上がれば秘密が漏れることはない。」





R「ここでバイトしてたん?」





S「せやで。」





あちこちからセクシーな声が聞こえてくる。


ボーイがお白湯とジンジャーエールを運んで来て「ごゆるりと」と声を掛けて出ていった。


志賀さんがお白湯を私に渡してくれた。


隣の席の女性の身体が上下している。小さな喘ぎ声を発し始めた。

下で食事をしていたカップルが私達の斜め前の席に入るのが見えた。




「したくなってきた?」


  

志賀さんに聞かれる。

返事をする前に唇を塞がれた。



「ホテルに帰ろう。」




私が言うと、そのまま押し倒される。




「人前でするのはイヤ。」




そう言うと




「誰も俺らのセックスなんて見てない。」





と志賀さんは言う。


そのまま、キスしながらノーブラの乳房を揉み始めた。

乳首が勃って来るのが分かる。

私はお酒が入るとしたくなる。

身体の自由が効かない上に、そんなことをされたら我慢できなくなってしまう。




「大丈夫。しよ。」




志賀さんに言われて、私は頷いた。

フラフラしながら、志賀さんの膝の上に座ると彼は私の上半身を丁寧に愛撫し始めた。



二十二歳 志賀さん(23)

志賀さんはお母様が通っているという美容室に私を連れていった。

髪を夜会巻きにしてお化粧してもらう。


その間に志賀さんはホテルを予約し、誰かに電話を掛けていた。

本当に行き当たりバッタリの旅だ。

何処に行くつもりなのだろうか。

不安になる。





私が着ていたタンクワンピースには、髪型もお化粧もゴージャスすぎた。






R「なんか・・・変よね?」



S「そんなことないで。」



R「いや、ちぐはぐ。」



S「ホテルで着替えたらえぇやん。」




そう言って彼は笑った。






ホテルはリッツ・カールトンだった。

それもジュニアスィートで、私は目を丸くした。


汗を流す為にシャワーを浴びた。

志賀さんは煙草を吸っていた。

私と居る時はほとんど吸わなくなっていたから、珍しかった。



着替えに入る。

そこでニプレスが無いことに気づいた。




R「ニプレスがない。」




S「ドレープで分からへんって。要らんよ。」




R「でも、気持ちの問題。」




S「ルルは乳首が小さいから、絶対大丈夫やって。」




言いくるめられる。

志賀さんはさっき買ったネイビーのスーツを着ていた。

靴は車のトランクから出して来た赤茶の紐靴だった。






S「大学生の時に俺がバイトしていたフレンチレストランに行こう。」




R「ドレスを着て?」




S「そういう店やから。オーナーにも紹介するわ。俺の従姉やねん。」




R「こんな半乳丸出しの格好で従姉に紹介されるの?それにこんなに高いヒール初めてやし。ちゃんと歩けない・・・」





私は真面目に聞いてしまった。

志賀さんはそれを聞いて大笑いしていた。





「大丈夫やって。めっちゃ似合ってる。」





すごく緊張していた。

ノーブラで外に出るのは小学生以来だった。



ホテルからタクシーに乗り込むまでの時間で、動物園のパンダの気持ちが理解出来た気がした。

スレ違う人達全員が志賀さんと私を見て振り返る。

余りのことに志賀さんのジャケットを借りてしまうくらい、恥ずかしかった。





「堂々としてなきゃ、逆に変だよ。」





ニヤニヤしながら、意地悪な言葉を囁いてくる彼を私は睨んだ。




タクシーに乗って割とすぐにお店に着いた。

お店は素敵だった。

白い大理石のような床に黒い椅子がくっきりと映える店内にはシャンデリアが輝いていた。

既に3組食事をしているカップルがいらっしゃった。

みんな女性はドレスだった。



パンプスの底の革が滑らないかとヒヤヒヤしながら、ゆっくりと歩く。





「重心を後ろに置いたら安定すんで。」






後ろから言われて振り向くと、白のワンピースに黒のジャケットを羽織った綺麗な人が立っていた。

抜けるように肌が白い。ハーフのようだ。

丸顔でホリが深くとにかく整った顔立ちをしていてショートボブがよく似合っていた。





「圭ちゃん、久しぶりやな。元気やったん?可愛い子連れて来てくれて嬉しいわ。」




その人が志賀さんに笑い掛ける。




「元気やで。紹介するわ。安藤ルルさん。結婚したいと思ってんねん。」






私は軽く頭を下げた。

彼は私を見て





「俺の従姉の志賀朱莉(あかり)。この店のオーナーや。」





と紹介してくれた。

朱莉さんは私をハグしてくれた。

懐かしい。

ジャスミンと同じ匂いがした。






瀬戸内の魚介を使っているという料理はどれも繊細で美味しかったし、ワインもペアリングで出して下さってすごく楽しめた。





非日常的な空間に身を置いて、お酒の力を借りることで朝の憂鬱な気分も「何とかなる。」と思えるようになっていた。



食事を終えて、朱莉さんがサービスで出してくれた桃のお酒を頂いた。

桃の果実をそのまま擂り潰したようなフレッシュさに感動してしまった。

シャンパングラスで3杯も飲んでしまった私を、志賀さんが楽しげに見ていた。




「帰ろうか。」




会計を済ませた彼に言われて立ち上がろうとした時に、私は焦ってしまう。



脚の感覚がない・・・



立ち上がろうとして踏ん張るのに、全く脚が立たなかった。


私は志賀さんを手招きして呼んだ。





「立てない。」





私が言うと、驚いた顔をしていた。

呂律も怪しくなっている。

私がお酒に強いことは彼も知っていた。




「酔うほど呑んでないよな。大丈夫か?」




そんな会話を交わしていると、朱莉さんが





「2階の喫茶で休んで行けば?」





と声を掛けてくれた。



一瞬、志賀さんが躊躇したのが分かった。

私から離れて朱莉さんと話している。

戻ってくると私を横抱きで抱えてエレベーターで2階に向かった。






二十二歳 志賀さん(22)

志賀さんは私に



「ここに居ればいい。」



それだけ言って何も言わなかった。

私の母をどう思ったのだろう。

ただ、良い印象なんて持てないことだけは分かっていた。

私のことだけなら、まだいい。

でも、彼の家族のことまでひどく言った母を私は許せなかった。





彼に何を話せばいいのか分からなかったけれど、私はもう実家には帰りたくなかった。

このまま縁を切って、一人で生きて行く道を心底望んでいた。

自分の思い通りにならない娘が嫌なら、放り出してくれて構わなかった。

本気でそう思っていた。








志賀さんに



「出掛けよう。」



と言われて、頷いた。



私と志賀さんはお盆休みの振替休日を取って三連休にしていた。

そして彼の秋冬の仕事用スーツを買いに行く予定にしていた。

彼は9月末で今の会社を辞めて、10月からはお父様の会社に入社することになっている。

その為のスーツだ。

今までよりも少し派手なスーツを欲しがっていた。





重い空気が流れる部屋から出て、外の空気を吸えば気分も変わる気がした。






雪を動物病院で預かって貰うと、神戸に車を走らせた。

私は関西方面にとても疎い。

疎いけれど、神戸の街は好きだった。

年配の女性がギンガムチェックのワンピースを着ているのを雑誌で見て、すごく素敵で憧れていた。

お洒落な街を二人で手を繋いで歩いた。

何もなければ、きっと楽しいデートのはずだ。

でも気持ちは上がらなかった。






どうしても今朝のことを考えてしまう。





志賀さんときちんと話し合わなければならない。

いつまでも志賀さんの部屋でお世話になる訳にはいかない。

結婚の決まっていない男女が一緒に暮らすことは、志賀さんのご両親にとっても良い心情は生まないだろう。





オフィス街の中にある隠れ家的なレストランに入って遅めのランチを食べることになった。

注文をして、ドリンクが来ると少し落ちついた。




S「何考えてんの?」



R「ん?何にも。」



S「嘘や。絶対考えてるわ。」



R「この状況でホントに何にも考えてなかったら、すごいメンタルよね。」





私が笑うと





S「俺と別れること考えてるのとちゃう?」



R「それは考えてない。」




S「なら、えぇけど。」




R「ただ、自分で部屋を借りようと思ってる。いつまでもお世話になるわけにはいかないし、けじめはつけた方がいいと思ってる。」




S「うちにいたらえぇやんか。」




R「そういう訳にはいかない。そこはちゃんとしたい。」





S「給料安いのに大丈夫?」





問題はそこだった。

財形で三万円を引かれたら、手取りは11万円ほどしかない。

残業してもサービス残業で手当てはつかない。

保険や年金、奨学金の返済等の諸経費を差し引くと転職して給料をあげなければ、生活はカツカツだろう。

車を持つことも維持費を考えたら儘ならない。




「とりあえず、財形の金額を減らすわ。」





と言うと




「家賃は俺が出すよ。」





と言ってくれた。

言ってくれたけれど、そこは甘えたくなかった。


私の人生だ。

志賀さんに迷惑や負担を掛けたくはない。

早急に住まいを探すことを決意した。


母のあの剣幕を考えると、銀行も辞めたほうがいいだろう。

ただ、私はコネ入社だ。一度実家に戻って話をすべきだと考えていた。

間に入って下さった方には誠意ある対応をせねばならない。





S「ほんまに縁切られたら、どうすんのん?」




R「どうもしないよ。」




S「そうなったら、俺と結婚しよ。うちの両親は許してくれてるわけやし。やれるだけのことをやってみて、それでもあかんかったら俺と結婚して。」




私は頷いた。

頷いたけれど、気持ちは重かった。




食事を済ませると二人でスーツを選びに大丸に向かった。

彼の行きつけのラグジュアリーブランドに入ると担当者らしきスタッフが出迎えてくれた。


私は緊張していたけれど、彼は慣れた様子でメンズ売り場に進む。

何点かをピックアップしてフィッティングルームに入った彼を待つ。

レディースの売り場にはシンプルなブラックドレスがディスプレイされていた。

胸元も背中もがっつりと開いていて、セクシーなドレスだった。



S「ルル。ちょっと見てや。」



R「似合ってるよ。」



S「いや、今からまた着替えるから。どれがえぇか言うて。」



R「うん。」




そのブランドが体型に合っていて好きだ、と前に話していた。

そして、志賀さんの雰囲気にとても似合っていた。



グレーのチョークストライプのウールのスーツと、シンプルな細身のネイビースーツを選んだ。

ドレスシャツはシンプルな白を選び、ネクタイはワイン色のものを一本。




総額は50万円を軽く越えていた。




支払いを待っている間に、志賀さんがディスプレイのドレスに目をつけた。





「なぁ、このドレス着てみてん。」




と言い出した。





「無理です。」




即答する。






海外の女優さんじゃあるまいし、こんなにセクシーなドレスを着ることなんて一生ないわ。

と心の中で呟いた。





「こんな時くらいじゃないと着ることないで。ちょっと着てみ。」





そう言うと志賀さんはスタッフを呼んだ。



ドレスとニプレスを渡される。

やはりノーブラで着るんだなぁ・・・そう思った。



36サイズを渡されてフィッティングルームで着替えた。

すごい露出である。

胸の谷間どころかみぞおち辺りまで開いていて、背面は腰までガッツリ見えていた。

どこもかしこもスースーする。

裸にバスタオルの方がまだマシだ。




顔だけ出して志賀さんを呼んだ。




「うっわぁ。すごいな。セクシーやな。めちゃくちゃ似合ってんで。出て来てや。」



久々に声がデカイ。

スタッフが




「よろしいですか~?」




と揉み手をしながら寄ってくる。



私は胸元を反射的に隠した。

志賀さんがその手を払った。



「なぁっ‼むっちゃ似合ってるやんな。」



彼がスタッフに言うと



「とってもお似合いでございますぅ~。日本人でこのドレスがお似合いになられる方はそういらっしゃらないですよ~。芸能人では○○様が先日着用されてましたぁ。」



その言い方が営業丸出しの言い方で、私は余計に恥ずかしくなってしまう。

芸能人と一般人は全然違う。

それに似合ってなくても店員は本当のことなんて言わないだろう。




「これも買うわ。」





志賀さんが言ったのを、私は遮った。





R「着ていく所ないし、いらないよ。」





S「結婚したらパーティーもあるし、必要になってくるよ。」





R「それはその時に考える。」





S「じゃあ、今からそのドレスを着れる場所に行こう。」





志賀さんはマネキンがドレスに合わせていたピンヒールのパンプスを私に履かせた。

海外ブランドの靴は甲が薄くて幅がない私にちょうど良かった。

小さなハンドバッグをスタッフの人が数点揃えて持って来た中からシンプルな黒いサテンのバッグを彼が選んだ。


彼は黒いカードをスタッフに渡した。

ドレスとパンプス、小さなパーティーバッグで50万円を越えていた。

1回で百万円以上の買い物をしてしまう滋賀さんの顔をマジマジと見た。

今まで一緒にいてこんな買い物をしている所は見たことが無かった。

でも彼がいる世界とはこういう世界なのだろう。






「普段はお金を使わないから、たまにはね。」





私の視線に気づいて、そう言って来た。

確かに外食よりも家でご飯を食べたがったし、下着も決まったもの5枚をローテーションで履いて傷んだら買い足すスタンスのようだった。




余計な物は買わないから、こういうお金の使い方は有りなのだろう。




いや、これは余計な物じゃないのか?

無くても困らないのではないだろうか。