二十歳 ジャスミンとタクオ(49)
ジャスミンが帰ってきたのは、初七日が終わった後だった。
友達の実家が定食屋をしていたので、最後の挨拶も兼ねて二人でランチすることにする。
ジャスミンは卒業旅行のことをひどく気にしていたけれど、私は気にしてないことを伝えた。
社会人になってから、二人で旅行することを約束した。
タクオと箱根に行ったことは伝えてあったけれど、詳しくは話してなかった。
「タクオとはどうするの?」
今、私が一番聞かれたくないことを当たり前のように聞いてくる。
今、気になることはそれしかないか・・・そう思う。
チキンカツ定食を前にして
「後で話すよ。」
と話を見送った。
ボリュームがあって、副菜が多く、一人暮らしの私達には嬉しい定食だった。
しょっちゅうサービスしてくれて、申し訳ないくらいだった。
一年生の時は週に3~4回通うこともあった。
冬のカキフライ定食も大好きだったし、定番のチキンカツは本当に美味しい。
「ルルちゃん、また遊びにいらっしゃい。うちに泊まればいいんだから。待ってるからね。」
と言って貰えて、鼻の奥がツンとする。
涙が出そうだったが、我慢した。
「えーっ、おばさん‼私には言ってくれないのーっ。」
ジャスミンがおどけて言うと、みんなが笑った。
笑いながら、すごく淋しくなったのはきっとジャスミンも一緒だと思う。
手を伸ばして、ジャスミンの手から荷物を半分受けとる。
さりげなく手を繋いだ。
「淋しいね。」
とジャスミンが言う。
私が黙っていると、エヘヘと笑いながら顔を覗き込んで来た。
私も笑う。
ジャスミンの笑顔にいつも助けられた。
そんな風に思うと、また涙が溢れそうになった。
後に入る後輩に家電やベッドを譲る約束をしていたから、私の引っ越しの準備は簡単なものだったけれど、ジャスミンは引っ越し業者を頼んでいた。
荷物をまとめるのを手伝う。
見慣れた夏物の洋服や飾ってあった小物類、使わないお皿を新聞紙でくるんで、段ボールに詰めていく。
ドリカムのCDが部屋に流れていた。
あっという間に夕方になる。
時計を見ると五時過ぎだった。
「ねぇ、タクオとはどうするの?」
不意にジャスミンが聞いて来た。
気になっていたのだろう。
「別れるよ。」
そう言うと、びっくりしたように彼女の視線がこちらに向いた。
「どうして?」
「タクオには彼女がいるからねぇ。」
何でもないことのように言ってみる。
「あっちと別れたらいいじゃん‼」
とジャスミン。
タクオのプライベートなことを勝手に話すことは憚られた。
「親が決めた許嫁やから、無理みたいやで。」
「何それ?」
「タクオだけではどうしようもないことやってこと。だから、仕方ない。私は実家に帰るし、そうなったら、月に一度会えるかどうかも分からへんやん。離れたら、気持ちも冷めるやろ。」
「本気で言ってるの?」
そう言われて、私の涙が膝にポタポタと落ちた。
「仕方ない。」
そんなふうに思わなければ、どうしようもなかった。
私は彼女に抱きついて泣いた。
ジャスミンの掌が私の背中を優しく撫でてくれていた。