二十歳 ジャスミンとタクオ(21)
タクオとの時間はあっという間に過ぎた。
途中でハプニングが起こる。
途中、バイト先のお母さんから連絡があり、私はバイトに入った。
1年生の秋から、私とジャスミンは芸妓のバイトをしていた。コンパニオンに毛が生えたくらいの芸妓だが、時給が良いのとお客様からチップを貰えるので声が掛かると必ず行く。
私は幼稚園から高校2年生まで、日舞と茶華道を習っていた。
簡単な着付けなら自分で出来たし、お座敷で舞いが出来ることで重宝がられた。
3人から5人でお座敷を回る。
一番人気の芸妓のお姉さんが私を気に入ってくれていたので、一年生の頃はよく呼ばれていた。
わざと地元の方言を出し、関西訛りで話すことで指名を増やしていた私。
一晩で稼ぎが5万円以上になることが常だった。
このバイトにハマッて学校に来なくなった子もいたけれど、私達は学校を休むことはしなかった。
ジャスミンと卒業旅行に行く資金として貯めていた。卒業旅行をハワイにするか、オーストラリアにするかで悩むことも楽しかった。
その日は1人二万円の懐石を出すお店で、会社の役員会後の食事宴会があると聞いていた。
「粗相のないように。」
いつも通りお母さんに言われて、タクシーに乗り込む。
私の好きなお姉さんとの仕事は、特に緊張する事はなかった。
五月生まれの私の源氏名は「皐月」だった。
お座敷でお酌をして回ることもあれば、特定のお偉いさんの横について回らないこともある。
今回は回らない担当だった。
以前、私がついたことのある方からの指名と言うことで指名料として二万円がつく。
ラッキー。
薄いピンク色の桃の花が散りばめられた着物で、いつもよりもくっきりと濃いめのお化粧をし、車の中でお姉さんが「塗香」を手首と耳裏に付けてくれていた。
「皐月でございます。」
廊下から膝をついてお座敷に入り、ご挨拶する。
見覚えのあるお客様を探し、お姉さんに確認を取り、隣に座り、再度ご挨拶する。
顔を上げて、お偉いさんに微笑みかけて隣の男性に視線を移す。
見覚えがある・・・それどころではない。
シロさんだった。
あちらもびっくりしてましたけど。
こちらもびっくりしましたえ。
「連絡する。」
そう言って連絡をくれなかった人。
その時点で私は知らん顔を貫く所存でした。
指名して下さったお偉いさんは少しだけボディタッチがある方でしたから、手を握られたり、お尻を触られたりもあります。
余りにあからさまになってくると、お姉さんが飛んで来て、然り気無く庇ってくれる。
それで、私はさほど嫌な想いはせずに済んでいました。ありがたい。
舞いが終わり、お手洗いに立ったお偉いさんをおしぼりを持って追いかける。
廊下でシロさん、待ち伏せ。
気まずい。
非常に気まずかった。
声を掛けられそうになった所に丁度お偉いさんが登場してくれて難を逃れました。
お姉さん方の野球拳が始まると、シロさんに呼ばれます。
「ルル、何やってんの?」
そう言われて
「バイトです。」
と関西訛りで答える私。
「こんなバイトはダメだよ。」
そう言われて、泣きそうになってしまう。
「もう、関係ないじゃん。」
そう言いたかったけれど、言えなかった。
こんな風に会いたくはなかった・・・
そう思うと情けなさが押し寄せてくる。
シロさんは私が付いたお偉いさんの秘書をしているらしい。
袂を引かれて廊下に出る。
「今日、こっちに泊まったら明日解散になるから。明日の朝、必ず連絡する。」
そう言われて、私は頷いた。
置屋のお母さんに送って貰って帰ると2時を過ぎていた。
シャワーを浴びて、私はとりあえずベッドに潜り込んだ。