二十一歳 志賀さん(12)
次の日、志賀さんは仕事に復帰していた。
いつものように窓口に来て、通帳にメモを挟んでカルトンに乗せる。
「食事に行こう」
と書いてあった。
私は頷いた。
きちんと話さなければいけない。
いつもの駐車場で待ち合わせた。
志賀さんはいつも通りだった。
私もいつも通りを装った。
海岸沿いにあるイタリアンレストランに行って食事した。
食事が終わると初めて昨日のことを口にした。
私に謝ってくる。
謝った上で
「結婚を真剣に考えて欲しい。」
そう言った。
「ルルは俺のことどう思ってんの?」
とも聞かれた。
正直に答えるしかなかった。
「今は相手が誰であっても、結婚は考えられない。今の私にとって結婚に一番近い人は志賀さんかも知れないけれど、正直自分の気持ちが分からない。」
そう話した。
彼は
「もしも、子どもが出来ていたらどうする?」
そう言われても
「それは出来ていた時に考える。」
としか言えなかった。
私は最低かもしれない。
でも、志賀さんと結婚して一緒に暮らしていく未来が想像出来なかった。
付き合いたいとか、誰かに取られたくない気持ちが全くなかった。
「俺はルルが結婚してくれるなら、絶対に一生大事にするって約束出来るで。」
そう言って貰っても、私は頷くことが出来なかった。
暫く志賀さんと会うのを辞めることを私は決めた。
一人になって考えるべきだと思った。
志賀さんに伝えると苦しそうに
「待ってる。」
と言ってくれた。
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私はインフルエンザで寝込んだ。
当たり前と言えば、当たり前だ。
ゴリゴリの感染者とセックスしたんだから。
生理は来た。
ホッとした。
赤い経血を見た時は、トイレで泣いてしまいそうだった。
胸が張らずに生理が来たことに若干の不安は覚えたけれど、きちんとした経血量があった。
生理の後に念のため検査薬で検査をすると陰性だった。
志賀さんにはメモで伝えた。
窓口には毎日来てくれていても、メモのやり取り等はしていなかった。
久しぶりに通帳にそれを挟んだ。
一度出て行った志賀さんはすぐに戻って来て、また通帳を出して来た。
周りに分からないように私が笑うと、複雑な顔をしていた。
「今日会える?」
彼のメモを見て頷いた。
2週間以上ぶりだった。
ちゃんと考えた。
そして私は志賀さんと付き合うと決めていた。
もしも子どもが出来ていたら・・・その時は堕胎して志賀さんと付き合うつもりにしていた。
「赤ちゃんが出来たから結婚する。」
その選択はなかった。
私は冷たくてひどい人間だ。
子どもを育てる自信がなかった。
育てる自信がないのに子どもが出来るような行為をする。
避妊していたとしても、100%じゃない。
情けないくらい自己中心的でイヤな女だと思っていた。
タクオには今回のことを話した。
思っていることを全て話した。
彼は黙って私の長い話を聞いてくれた。
「どんな選択をしても俺はルルの味方だよ。大丈夫。」
その言葉で、私は大丈夫だと思えた。
私はタクオを愛してる。
タクオへの感情は志賀さんへの感情とは全然違う。
タクオは特別で代わりはいない存在だ。
それだけは分かっていた。