Bluebird~恋と愛のちがいについて~

自分の恋愛やセックスを振り返って整理していこうと思います♡

二十一歳 志賀さん(9)

私は23時を待てずに眠ってしまった。

タクオからの電話が遠くに聞こえていたけれど、出ることが出来なかった。






相変わらずの日々だった。

あっという間に三月に入った。

仕事場と家の往復。

変わったことと言えば、ジョウさんが県外の支店に転勤になったことでテニスを教えてくれる人がいなくなった。

マリさんは週末に会いに行っていた。

私とマリさんは会う回数は減ったけれど、電話でマメに連絡を取り合っていた。



あとはバレンタインに志賀さんにネクタイとチョコレートをプレゼントしたくらいだろうか。



1日1回は志賀さんは窓口に来ていた。

用があっても無くても、窓口に来て通帳にメモを挟んで夜の予定を教えてくれたり、私の予定を聞いてきた。

出張の時は教えてくれていた。

でも、その日は何の連絡もなく来なかった。



ロッカーで着替えていると、同期の女子が志賀さんがインフルエンザで休んでいると話していた。





仕事場を出て、スーパーに寄った。

公衆電話から志賀さんに電話を掛ける。


コールを10回鳴らしても出ない。

切ろうとした瞬間に受話器が上がる音がした。





S「はい。志賀です。」





声が掠れてガラガラだった。

申し訳ないけれど、笑ってしまった。




R「もしもし。インフルエンザの志賀さんですか?」



志賀さんが笑う。




S「インフルエンザの志賀です。」




私が笑うと志賀さんは咳をした。




R「大丈夫?」




S「死にそうや。」




R「そう言ってる人は死なへんから大丈夫よ。」




S「なんや、ひどい言われようやな。」




R「食べるものある?」




S「ない。米はある。」




R「飲み物は?」




S「お茶がある。」




R「20分後に行くから、鍵開けられる?」




S「死ぬ気で開けるわ。」





二人で笑ってしまった。





電話を切ると、私は急いで買い物した。

おじやと煮込みうどんを作ろうと考えていた。

ポカリスエットとヨーグルト、ゼリーと桃缶もかごに入れた。



チャイムを鳴らすと鍵を開けてくれた。





R「大丈夫?インフルエンザの志賀さんっ。」





ふざけて声を掛けたけれど、かなりしんどそうだった。

抱き締められると身体が熱い。

額に手を当てると、私の手の冷たさが気持ち良かったのか彼が笑う。



ベッドに横にならせてから、冷凍庫を開けるとアイスノンがあった。

タオルをお風呂場で探して巻いた。

頭の下に引いてあげると



「気持ちいい。」



と笑う。



「水分取ってる?」



聞くと



「何も飲んでない。」



と言う。



ポカリスエットを飲ませた。

喉を鳴らして飲むと



「眼鏡取って。」



と言ってきた。




R「目、悪いの?」



S「うん。0.1ないで。」



R「嘘っ。」



S「ほんまにあんた、俺に興味ないねんな。コンタクトしてるやん。」




と笑っていた。




ボストン型の鼈甲の眼鏡を掛けると違う人みたいだった。




「アラレちゃんみたいやな。いつものハンサムが台無しやん。」



私は大笑いしてしまった。




「ほんま、あんた・・・俺が復活した時は覚えとけよ。」




志賀さんは憎まれ口を叩いていた。




キッチンを借りることを伝えると



「料理出来んの?」



と聞いて来る。



R「多分、普通には出来るはず・・・」




S「めっちゃ何にも出来ひんように見える・・・」




R「よく言われる。」



 

そう言うとキッチンでお粥を炊く。

梅干しを叩いて鰹節とゴマ、醤油とみりんを混ぜて練り梅をつくり、塩昆布を出した。


冷凍庫で冷やしていた桃缶を開ける。

一口大に切るとガラスの器に盛り、ラップをして冷蔵庫に入れた。



志賀さんはグッタリしていた。

体温計を脇に挟んで待つ。

ベッドの横に座って髪を撫でた。

頸動脈に掌を添えてあげると気持ち良さそうに目を閉じている。




39.6度もあった。




R「熱冷ましある?」



S「ある。昨日、病院で出してくれた。」



R「何か食べてから飲もうね。って言うか、食べれんの?」



S「腹は空いてんねん。」



また笑ってしまう。


私は桃を冷蔵庫から出して、志賀さんの口に入れてあげた。



R「病気の時は桃缶やろ。」



S「何やそれ?」



R「えぇ?子供の時に熱出したら桃缶食べさせてくれへんかった?」



S「バニラアイスちゃう?」



R「ちゃうわ。桃缶のもんやで。美味しくない?」



S「旨い。」



R「やろう?」



S「あんた、言葉変わってんで。」



R「知ってます。」



二人で笑った。 



お粥も炊けていた。

食べるか?と聞くと食べると言う。



お粥に練り梅と塩昆布を混ぜて口に運んであげる。



S「旨い。」



R「私が唯一完璧に作れる料理なんで。」



S「マジで?」



R「マジで。」



志賀さんはお粥をおかわりして食べてくれた。

解熱剤を飲ませて布団を掛ける。


まだ、7時過ぎだった。

少し眠るように言う。

眠って汗をかけば、少しは熱が下がる。

着替えさせてから帰る計算だった。


洗い物を終えると寝息を立てて眠っていた。




考えてみれば、志賀さんの寝顔を見るのは初めてだ。

志賀さんは分かりやすいハンサムだ。

好き嫌いは別として、10人いたら10人が「ハンサム」と認定するような顔だった。

バランスの取れたちょっと甘いマスクに一目惚れする子も多いだろう。

普段はデリカシーがないイメージだが、あれは自分を防御するためのものなのかもしれなかった。

二人でいると至って普通の人だった。




無意識にまた"New York State of Mind" を鼻歌で歌っていた。

汗が浮かび始めた額を濡れたタオルで拭う。

よく眠っている。


出窓のミー子の写真が私達を見ていた。



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