二十一歳 タクオと志賀さん(1)
週末、私は有給を使って休みを取った。
支店なら新人の私が有給を使うことは勇気がいる行為だが、本店では消化するように言われていた。
タクオと約束した次の日、志賀さんに
「週末、日帰りでどこか行かないか?」
と誘われた。
「短大の友達が来るから。」
と私はその誘いを断った。
母親にはマリさんに資格試験の勉強を見て貰う為に彼女の家に泊まると嘘をついた。
マリさんにその事とタクオと泊まるホテルを伝えると
「いいねぇ♪楽しんでおいで。」
と言ってくれた。
母親には案の定、小言を言われた。
だが、彼女は私が毎日門限近くまでサービス残業していると思っていた。
支店ではそれが普通だった。私はそれを利用して自分の自由な時間を作っていたが、母親はそれを知らない。
だから、小言を言いながらも「ダメ。」とは言わなかった。
心が痛んだが、そうでもしなければ私の生活の自由が無くなる。
それくらい母親の拘束はキツかった。
空港までタクオを迎えに行く。
飛行機は10時過ぎに到着する。
いつも通勤はコンサバな洋服にヒール靴だった。
でも普段の私は全くコンサバじゃない。
今日はダウンベストにヒステリックグラマーのパーカー、スリムジーンズにコンバースのハイカットスニーカー。
全身黒だった。
休みの日はこんな感じだったので、会社の人に偶然会うと驚かれた。
逆にタクオはコンサバな私を知らない。
タクオを見つけて、手を振る。
嬉しくて仕方なかった。
風邪の具合やジャスミンの近況を話ながら、駐車場まで一緒に歩く。
目立たないように小指を絡めて歩いた。
車に乗るとキスをした。
軽いキスで我慢するつもりが、舌を絡めて唾液まで吸ってしまった。
タクオは私の運転が新鮮だ、と笑っていた。
二人で地元の小さな水族館に行った。
家族連れに混じって、手を繋いで見て回る。
暗い場所では唇を重ねた。
アシカやイルカのショーを見て、二人で沢山笑った。
一緒にいるだけで幸せだった。
お昼はカジュアルなイタリアンレストランを予約していた。
マリさんの幼なじみの吉井さんがシェフとして働くお店で、彼女と時々一緒に訪れていた。
何を食べても本当に美味しくて、タクオに食べさせてあげかった。
タクオはシャンパンで私はペリエで乾杯した。
「編入おめでとう。」
私が言うと嬉しそうに笑った。
コース料理も間違いのない美味しさで、特にトマトのパスタは絶品だった。
デザートはワゴンに載せた中から3種を選ぶシステムだったが、吉井さんが10種のデザートを苺のジェラートと組み合わせて出してくれた。
紅茶を飲みながら、ゆっくりと食べた。
タクオと食事をすることは、私にとってはタクオとのセックスと同じ線上にある。
美味しいものを一緒に食べたかった。