二十一歳 志賀さん(4)
志賀さんの口は固かったし、きちんとしていた。
デートのことは勿論、初めてのデートでセックスをOKするような私を「ヤリマン」扱いもしなかった。
仕事場で会っても、今までどおり。
誰も私達がセックスした仲だとは思わなかっただろう。
ただ、肌を重ねると心の距離は近くなる。
年末になると、志賀さんは週に何度かは食事に誘ってくれるようになっていた。行くこともあったし、行かないこともあった。
二人で会う時はタメ口になっていて、直接
「声がデカすぎる。」
と言えるくらいになっていた。
ホテルに誘われることもあったけれど、いつもストレートに「行かない。」と断った。
キスは会う度にした。
志賀さんのタバコ臭いキスに私は慣れ始めていた。
志賀さんのキスは嫌いじゃなかった。
むしろ好きだった。
「ルルちゃんって、変わってんな。」
志賀さんは何回も言っていた。
今まで周りにいた女子は自己アピールが凄かったらしく、自分に対して「声がデカすぎる。」とかダメ出しするような人はいなかったらしい。
それを聞いて
「何ソレ?自慢?」
と言ってしまった私に、志賀さんは
「ほらっ‼それっ‼そういうとこやねんっ‼」
と笑っていた。
志賀さんはボンボンだった。
実家が会社を経営していて、家業に入る前に修行として就職したらしい。
営業成績は良かったし、人当たりが良くて人気者だ。
お嫁さんは銀行に勤務する人の中で決めたい気持ちがあるらしい。
「ルルちゃん、ドンピシャやってんけどな~。」
と何度も言われたが、全くその気になれなかった。
可愛かったり、綺麗だったり、スタイルが良い子は他にいくらでもいた。
志賀さんを好きな子はその中に何人もいる。
電話番号も聞かないようなズボラ女子に入れ込む必要なんてないと思う。