二十一歳 南口(16)
東京駅で待ち合わせしたジャスミンとタクオに見送られて、私は新幹線に乗り込んだ。
帰りたくなかった。
でも、そんなわけにはいかなかった。
私はずっとタクオの宿題について考えていた。
考えてはみるものの、私とセックスしてくれるような男子は周りにいなかった。
身近な男性なんて職場のさんちゃんくらいしかいない。
さんちゃんかぁ。
さんちゃんねぇ。
溜め息しか出ない。
さんちゃんのことは好きだが、LOVEじゃない。
それにさんちゃんの事が好きだと言う先輩がいたから、それを思うと「ない。」の結論に辿り着く。
学生時代のバイト先のオーナーがいたことを思い出した。
彼は9歳年上だ。学生時代に何度かドライブに誘われた事があった。
おしゃれで超絶ハンサムだったが、妻帯者だ。
ただ、奥さんと私は仲がいい。
だから、誘いを断っていた。
やはりこちらも「ない。」よね。
後は同期・・・後のことを考えたら、気まずくなりたくないから却下だ。
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私の嘘は何とか突き通せた。
母親の機嫌は悪くなかった。
次の日、私は出勤した。
顔のアザはまだ残っていたが、マスクをしていれば分からない。
夏風邪をひいたと嘘をついたが、ジョウさんが異常に心配してくれた。
支店長に呼び出され、南口を転勤させると言われた。
私は、それなら私を転勤させてくれとお願いした。
今の支店で仕事を続けるのは苦痛だった。
和解金は300万円を提示して来た。
派手に遊んでいたらしく、財形を崩してもそれがアイツが出せるギリギリの金額らしい。
私はそれで頷いた。
しばらくして私の本店への移動が決まった。マリさんとジョウさんが支店とは別に送別会を開いてくれた。
南口は私に近寄ってくることはなかった。
直接の謝罪は私が断った。
顔なんて見たくなかったし、そんなものはいらないと思っていた。
毎日23時に鳴る電話には、なかなか出られなかった。
セックスする相手は見つからなかった。