Bluebird~恋と愛のちがいについて~

自分の恋愛やセックスを振り返って整理していこうと思います♡

二十一歳 南口(3)

当日は支店長も参加していた。

地元の方々に混じってお祭りに参加した。


お祭りの場所は銀行の真裏だったので、更衣室で浴衣に着替えた。

マリさんは大胆な花柄の藍色の浴衣ですごく色っぽかった。

私は白地に藍色の切り替えが入ったシンプルな浴衣だった。



盆踊りは20時からだが、それぞれに分かれてお手伝いに回る。

早帰りの為、他のみんなは帰宅してから家族と一緒に顔を出してくれていた。


面倒くさいと思っていた盆踊りも、踊り始めると楽しかった。

マリさんの後ろについて踊っていると、下駄の鼻緒が切れてしまった。


紐があれば修繕出来そうだったので、マリさんに声を掛けて


「更衣室に行ってくる。」


と伝えた。


片足は裸足の状態で、暗証番号を押して裏口を開ける。

階段を登って、更衣室に戻る。

お菓子についていた組紐を取っておいたもので修繕に掛かる。

ドアがノックされたので、マリさんだと思って返事をすると立っていたのは南口だった。


「こっちにくるのが見えたから、どうしたのかと思って。」


そう言われ


「鼻緒が切れてしまって修繕してるんです。」


と答えた。


「大丈夫ですから、先に戻って下さい。」


振り向きながら、そう言った瞬間に腕が伸びて来て床に押し倒された。


そのまま馬乗りで腕を押さえられる。


「声出すなよ。」


無理矢理唇を重ねてくる。

顔を背けて叫ぼうとすると、目の前に星が飛ぶ。じんじんとした痛みが口許を熱くした。

続けて反対の頬を平手打ちされると耳の奥がキーンと鳴った。

口の中に血の味が広がっていく。


「やめて下さい。」


私が言うと


「すぐに終わるから。」


と胸元をまさぐられ、ノーブラの乳房を思い切り掴まれた。


脚をバタつかせてイヤだと暴れると、髪を掴まれて唇を塞がれる。

力任せに浴衣の胸元を広げると、乳房を掴み乳首を噛まれた。

痛みで身体がよじれる。


「やめて。」


お腹の上に馬乗りになられると、逃げようがなかった。

下駄が目に入った。

必死で手を伸ばしてそれを掴む。

私はロッカーを下駄でガンガンと叩いた。


下駄を奪われて、ありったけの声で

「助けて。」

と叫んだ。


バタバタと階段を上がってくる音がする。

南口は私から離れた。


扉を開けたのはジョウさんだった。

呆然とした顔で私を見る。

次の瞬間


「何しとんねんっ。」


と叫んで南口の浴衣を掴んで引き倒し、殴りかかった。



私は急いで浴衣を合わせて、手で胸元を隠した。

止めに入ろうとした。 

でも、止められなかった。

身体が震えて立ち上がることさえ出来なかった。

這うように壁際に向かい、窓枠に指先を掛けて立ち上がる。



盆踊りが終わったマリさんが上がって来て、ジョウさんを止めるまでの数分間がすごく長く感じた。


マリさんが支店長を呼びに行く。

私の姿を見て、何があったかは察したようだった。

支店長が南口とジョウさんを連れて出て行った。


マリさんが着替えを手伝ってくれた。

手が震えてワンピースのボタンが止められなかった。

暴れた時にぶつけたのだろう。私の手足にはアザが出来ていた。


マリさんの車で送って貰って帰宅した。



明日は土曜日だった。



支店長からは


「明日は休みなさい。」


と言われた。


マリさんからは


「ルル、何でもないよ。大丈夫。忘れなさい。」


と言われた。





お礼を言って、家に入ると部屋に直行した。




気持ち悪かった。

荷物を置くとトイレで吐いた。

そのままお風呂に入る。

何度も歯磨きをして、何度も顔を洗った。

乳首を噛まれた痕からは血が滲み、乳房には指の痕がくっきりとついていた。



シャワーを浴びながら泣いた。




別にヤラれた訳じゃない。

短時間のことだった。

大したことじゃない。



自分に言い聞かせる。



そう思っても、南口の感触が残っていた。思い出すと身体が震え始める。

私は皮膚が真っ赤になるまで自分の身体を洗った。


明日の朝、家族にこの顔のアザをなんて説明しようか。

ぼんやりと考えていた。



結局、私は先輩と取っ組み合いの喧嘩をしたと家族に嘘をついた。

この時の母のお説教で私は自分がコネ入行だと知った。

「その方の顔を潰すようなことだけはしないで。」

と言われたが、私は返事をしなかった。




月曜日はマスクをして出勤した。

出勤するとすぐに支店長に呼ばれた。

勿論、南口のことだった。

マスクを外した私の顔は唇の左端が切れ、内出血して腫れ上がっていた。

右頬は内出血で大きく紫色に染まり、口の中が切れている。

支店長が思っていたよりも、私の顔の傷は酷かったのだろう。


「大変だったね。痛かっただろう。僕がいたのに申し訳ない。」


そう言って目を伏せた。



「口外せず、示談にして欲しい。」



南口からの要求だった。

支店長もそうして欲しいと口にした。

それはこちらもそう思っていた。


けれど、南口が示した示談金は50万円だった。

私は病院の診断書と顔と身体の写真、当日に書いた日記などを提出して裁判に持ち込む考えがあることを伝えた。

マリさんとジョウさんに証人になってもらう意向があることも。


私は1000万を提示した。

南口の年収1.5年分だ。

支店長は驚いていた。


「仕事のストレスが溜まっていた。」


南口はそう言っていたらしい。



そんなことで?



怒りで言葉が出なかった。

金額は不当だとは思わなかった。

本当ならば、警察沙汰でこの銀行を解雇になるようなことだ。

人生を棒に振るようなことを南口は自分でやったのだ。


その責任は取るべきだ。


「相談させて欲しい。」


支店長が仰ったので私は頷いた。



21歳の私がこれだけ堂々と南口に条件を提示できたのには理由がある。

ジャスミンのご両親は弁護士だった。

ジャスミンに電話すると、せねばならないことを教えてくれた。


「泣き寝入りなんてしちゃダメ。相手に同情も一切するな。」


とジャスミンはアドバイスしてくれた。


「目撃者がいるんだから、警察行く手段もあるよ。」


とも言ってくれたが、こんな田舎でそんなことをすれば、たちまち噂が広まる。それは両親に対して申し訳なかった。



顔のアザが完全に消えるまでは休んで良いと支店長にいわれた。

私は支店長室からマリさんがいる出張所に寄って帰宅した。


マリさんにお願い事があった。


「会社からの連絡や伝言はマリさんが私に連絡してくれないか。」


と言うと


「かまわないよ。約束する。」


と言ってくれた。


私は彼女にだけ、2~3日東京に行くことを伝えた。


私はジャスミンに会いに行くことを決めた。





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