二十歳 ジャスミンとタクオ(44)
卒業旅行の為に、下見して決めていたスーツケースを買った。
私はシルバーを、ジャスミンはショッキングピンクで色違いのお揃いにした。
ウキウキしていた。
明日の為にそれぞれの部屋で荷造りをしてから、ジャスミンの部屋に泊まる約束をして別れた。
部屋に帰るとすぐに電話が鳴った。
ジャスミンだった。
「ごめん。お祖父ちゃんが亡くなったから、旅行に行けない。本当にごめん。もし良かったら、タクオと行って来て。」
前日キャンセルは全額負担のホテルや旅館が多かった。
日にちを変更することを提案したが、3月半ばに私が引っ越すことを考えると同じ行程スケジュールは厳しい。
それにバイトを抱えているタクオを1週間の旅行に誘うことには無理がある。
それに、ジャスミンと行くはずだった場所にタクオと行くのは気が引けた。
私は途方に暮れてしまった。
とりあえず、タクオに電話してみる。
状況を説明したけれど、やはり長期旅行は難しいとの返事だった。
仕方なくキャンセルの電話を掛ける。
身内が亡くなった為、と伝えると殆どの宿泊先がキャンセル料を20%にしてくれた。
私はジャスミンの分も一緒にキャンセル料を振り込み、帰宅した。
空っぽのスーツケース。
仕方がないことだ。
人が亡くなったことを思えば、旅行がポシャッたことなんて大したことじゃない。
ふと「一人で行けば良かったかな。」と思ったが、この状況では楽しめそうもない。
淋しさに押し潰されそうな気持ちになる。
実家に戻れば、母の束縛が待っているだろう。親の目の届かないこの場所は、私にとって天国みたいなものだ。
2週間後には実家に帰らなければならない。今までのように一時的ではなく、私の帰る場所は実家しかなくなる。
過干渉の母のことだ。私が毎月こちらに遊びに行くなんて言ったら、機嫌が悪くなるのは目に見えている。
溜め息が出た。
電話が鳴って、我に返る。
タクオだった。
「2泊3日になっちゃうけど、箱根の温泉旅館が取れたから一緒に行こう。明日、8時に迎えに行くから。とりあえず、バイトが終わったら連絡する。」
そう言って電話は切れた。